「住みやすい」を数字にするのは難しい問題です。年収が高くても、家賃に消えてしまえば意味がありません。治安が良くても、稼げなければ暮らしは楽になりません。
そこで今回は、性格の違う3つの公式統計を組み合わせました。
- 年間純所得(Eurostat、2023年)……平均賃金と同じだけ稼ぐ単身者が、税と社会保険料を引いたあとに手元に残る額。物価の違いをならすため購買力基準(PPS)で比較します
- 殺人発生率(UNODC、各国の最新年)……人口10万人あたりの故意の殺人による死者数
- 住居費負担過重率(Eurostat、2023年)……可処分所得の40%を超える額を住居費に使っている人の割合
3つの数値がそろうヨーロッパ30か国について、それぞれの指標で順位を付け、3つの順位を足した合計が小さい順に並べました。
※順位を足す方法なので、指標ごとの差の大きさは反映されません。たとえば年間純所得が1位のスイス(47,247)と30位のブルガリア(8,548)の差は5.5倍ありますが、順位の差は29としてしか効きません。アイスランドは住居費のデータがないため除外しています。イギリスはEUを離脱しており、Eurostatの統計に含まれません。
| 順位 | 国名 | 3つの順位の合計 | 年間純所得(購買力基準)とその順位 | 殺人発生率(10万人あたり)とその順位 | 住居費負担過重率とその順位 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1位 | アイルランド | 16 | 32,005(7位) | 0.65件(5位) | 4.7%(4位) |
| 2位 | スロベニア | 24 | 19,115(20位) | 0.57件(2位) | 3.7%(2位) |
| 3位 | イタリア | 26 | 25,144(15位) | 0.57件(3位) | 5.7%(8位) |
| 4位 | キプロス | 29 | 25,254(14位) | 0.82件(14位) | 2.6%(1位) |
| 5位 | マルタ | 29 | 22,585(16位) | 0.56件(1位) | 6.0%(12位) |
| 6位 | オランダ | 31 | 38,607(2位) | 0.69件(8位) | 9.3%(21位) |
| 7位 | スイス | 32 | 47,247(1位) | 0.60件(4位) | 14.2%(27位) |
| 8位 | オーストリア | 34 | 34,340(6位) | 0.88件(17位) | 6.0%(11位) |
| 9位 | クロアチア | 36 | 16,862(27位) | 0.67件(6位) | 4.0%(3位) |
| 10位 | フィンランド | 37 | 29,156(11位) | 0.98件(19位) | 5.5%(7位) |
11位以下は、スペイン38、ポルトガル38、ポーランド39、ノルウェー40、ベルギー45と続きます。4位のキプロスと5位のマルタは合計29で同じ、11位のスペインと12位のポルトガルも合計38で同じです。この記事では年間純所得が高いほうを上にしています。
この表で一番はっきりしているのは、3つすべてで上位に入る国がほとんどないことです。1位のアイルランドですら、最も良い順位が住居費の4位。逆に、年間純所得で1位のスイスは住居費で27位、殺人発生率で1位のマルタは純所得で16位です。
1位 アイルランド:合計16
年間純所得32,005(7位)、殺人発生率0.65件(5位)、住居費負担過重率4.7%(4位)。3つすべてで7位以内に入った唯一の国です。
2位のスロベニアとは8ポイント差。これは2位から6位までの差(24から31)より大きく、1位だけが離れている構図になっています。
2位 スロベニア:合計24
殺人発生率0.57件(2位)、住居費負担過重率3.7%(2位)。この2つはほぼ最高水準です。
一方で年間純所得19,115は30か国中20位。「稼げないが、安全で住居費が軽い」というかたちで上位に入っています。
3位 イタリア:合計26
殺人発生率0.57件はスロベニアと同じ水準で3位。住居費負担過重率5.7%で8位、年間純所得25,144で15位。
どの指標も極端に良くも悪くもないのに3位に来ます。順位の合計で測ると、弱点のない国が上に来やすいことがよく分かる例です。
4位 キプロス:合計29
住居費負担過重率2.6%は30か国で最も低い数字です。可処分所得の4割超を住居費に使っている人が、40人に1人しかいません。
年間純所得25,254(14位)、殺人発生率0.82件(14位)。住居費の1位だけで順位を押し上げている国です。
5位 マルタ:合計29
殺人発生率0.56件は30か国で最も低い数字。キプロスと合計は同じ29で、地中海の島国2か国が並んで入りました。
年間純所得22,585(16位)、住居費負担過重率6.0%(12位)。こちらは治安の1位で押し上げています。
6位 オランダ:合計31
年間純所得38,607はスイスに次ぐ2位。殺人発生率0.69件も8位と高い水準です。
足を引っ張るのが住居費負担過重率9.3%で21位。上位10のなかで、住居費の順位が最も悪い国のひとつになります。
7位 スイス:合計32
年間純所得47,247で30か国中1位。2位のオランダを8,640引き離しています。殺人発生率0.60件も4位です。
それでも7位にとどまるのは、住居費負担過重率14.2%で27位だから。30か国の平均を大きく上回る手取りがありながら、住居費に苦しむ人の割合は下から4番目という組み合わせになっています。
8位 オーストリア:合計34
年間純所得34,340(6位)、住居費負担過重率6.0%(11位)、殺人発生率0.88件(17位)。
上位10のなかでは、フィンランド(0.98件)に次いで殺人発生率が高い数字です。とはいえ30か国で最も高いトルコ(3.23件)とは3.7倍の差があり、絶対値としては低い水準にあります。
9位 クロアチア:合計36
住居費負担過重率4.0%(3位)、殺人発生率0.67件(6位)。この2つで稼いだ順位です。
年間純所得16,862は30か国中27位で、上位10のなかで最も低い数字。スイスの3分の1強にとどまります。「安全で住居費が軽いが、手取りは少ない」という点ではスロベニアと同じ形です。
10位 フィンランド:合計37
年間純所得29,156(11位)、住居費負担過重率5.5%(7位)、殺人発生率0.98件(19位)。
北欧4か国のなかで最も上位に入りました。ノルウェーは14位(合計40)、スウェーデンは21位(合計55)、デンマークは22位(合計55)です。
まとめ
下位も見ておきます。30位 トルコ(合計77)、29位 ブルガリア(74)、28位 ラトビア(70)、27位 ルーマニア(67)、26位 エストニア(66)。トルコは殺人発生率3.23件で30位、ブルガリアは年間純所得8,548で30位でした。
意外なのが北欧と西欧の主要国の位置です。ドイツ16位(合計48)、フランス17位(合計50)、ルクセンブルク20位(合計54)、スウェーデン21位、デンマーク22位。デンマークは年間純所得が10位と高いのに、住居費負担過重率15.4%が29位で大きく沈みました。ルクセンブルクも純所得4位に対して殺人発生率が26位です。
参考までに、Eurostatは同じ統計で日本とアメリカの年間純所得も公表しています。日本は27,586、アメリカは35,245(いずれも2023年、購買力基準)。日本はイタリア(25,144)とフランス(28,135)の間にあたり、30か国に混ぜれば13位相当です。日本の殺人発生率0.23件(2023年)は、この30か国のどの国よりも低い数字になります。
最後に、旧版のこの記事との違いです。旧版は1位スイス、2位デンマークとしていましたが、住居費を加えるとスイスは7位、デンマークは22位まで下がります。そして旧版は、実際に上位に入ったアイルランド・スロベニア・イタリア・キプロス・マルタ・クロアチアにまったく触れていませんでした。
この記事の数値は、次の統計から集計しています。


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