1章:ABC分析とは?Excelでできる売上改善の基本フレーム
「売上を伸ばしたい」と思ったとき、最初にぶつかる壁は“どこから手をつけるべきか分からない”問題です。値引き、広告、営業強化…やれることは多いのに、全部に手を出すと時間も予算も溶けていきます。そこで役立つのがABC分析。限られたリソースを売上に効く順に配分するための、超実用フレームです。
ABC分析は、商品(または顧客・店舗など)を売上貢献度で並べ、上位から順に「A・B・C」の3グループに分類します。よく使われる目安は次のとおり。
- A:売上の上位を占める重要ゾーン(例:累計売上構成比 〜70%)
- B:中間ゾーン(例:70〜90%)
- C:残り(例:90〜100%)
ポイントは、“商品数の割合”ではなく“売上の割合”で区切ること。多くの現場では、全商品のうち一部が売上の大半を作っています(いわゆるパレートの法則)。つまりABC分析は、「伸ばすべき上位」と「効率化すべき下位」を一瞬で見える化する方法です。
そしてこの分析、特別なツールは不要でExcelだけで完結します。売上データさえあれば、並べ替え→累計→構成比→ランク付け、と積み上げるだけ。20代のサラリーマンでも、日々の業務で扱っているExcelスキルの延長で十分に作れます。
ABC分析が売上改善に効く理由はシンプルで、意思決定が速くなるからです。例えば、こんな判断がExcel上でできるようになります。
- A商品:欠品させない/在庫厚め/セット提案などで取りこぼしを防ぐ
- B商品:露出や導線改善でAに押し上げる“育成枠”として扱う
- C商品:棚・時間・在庫を食っていないか確認し、縮小や整理を検討する
要するに、ABC分析は売上改善を「がんばる」から「狙って当てる」へ変える考え方です。闇雲に施策を増やすのではなく、売上インパクトが大きい順に手を打つ。これだけで、同じ労力でも成果が変わります。
次章では、ABC分析を作る前段として必要なデータ項目(商品名・売上・数量など)と、Excelでの整形のコツを整理します。ここを雑にすると分類がブレて、アクションがズレます。まさに“準備が9割”です。
2章:準備が9割:必要データとExcelでの整形(商品名・売上・数量など)
ABC分析は作り方よりも、実は「元データの質」で結果が決まります。並べ替えや累計の計算はExcelがやってくれますが、商品名が揺れていたり、売上の定義がブレていたりすると、A・B・Cの分類が簡単に崩れます。ここでは、最低限そろえるべき項目と、Excelでの整形ルールを押さえます。
まず必要なデータ項目(最低ライン)
- 商品コード(推奨):同名商品の混在を防ぐ“主キー”。商品名より優先して使います。
- 商品名:レポートで見やすくするための表示用。
- 売上金額:ABC分析の軸。できれば税抜/税込どちらかに統一。
- 数量:売上が大きい理由が「単価」か「回転」かを切り分ける補助情報。
- 期間(年月/日付):集計期間が曖昧だと比較ができません。
可能なら、後で改善アクションに繋げやすいように以下もあると強いです。
- 粗利(または原価):売上だけ伸びても利益が出ない商品を見抜けます。
- カテゴリ/ブランド:A商品がどのカテゴリに偏っているか見える化できます。
- 販売チャネル/店舗:同じ商品でも場所で強弱が出る場合に有効です。
Excelに貼る前に決める「売上」の定義
地味ですが重要なのが、売上金額に何を含めるかです。例えば値引き後の売上なのか、送料や手数料を含むのか、返品はマイナス計上なのか。ここがブレると「A商品なのに利益が出ない」「実は返品が多いだけ」みたいなズレが起きます。
迷ったら、業務上の意思決定に近い形で統一しましょう。営業・販促の判断が目的なら値引き後売上、利益改善が目的なら粗利も一緒に持つ、が現実的です。
整形の基本:1行=1商品(または1商品×期間)にする
ABC分析は「商品ごとに売上を合計して並べる」のが基本なので、まずは表の粒度を揃えます。おすすめは次のどちらかです。
- 商品別に集計済み:1行に「商品コード・商品名・売上・数量」
- 日次/伝票明細:あとでピボットで商品別に集計(3章の手順が楽になります)
よくあるデータ崩れと、Excelでの直し方
- 商品名の表記ゆれ(例:全角/半角、スペース違い)
→ 可能なら商品コードで統一。商品名は表示用に。どうしても名前でまとめるなら、TRIM関数で余計な空白を除去。 - 売上が文字列(左寄せ、合計できない)
→ セルのエラーを確認し、数値に変換。区切り記号や「¥」が混ざっている場合は、置換で除去してから数値化。 - 空白行・小計行が混入
→ フィルターで「空白」を絞って削除。小計行があると並べ替えで地獄を見ます。 - マイナス売上(返品)
→ 返品を含める/除外するの方針を決め、列を分けるのも手。少なくとも混ざっていることは見える化しておきます。
分析用の「きれいな表」に仕上げるコツ
Excel上では、データ範囲を選択してテーブル化しておくと後がラクです。列名が固定され、並べ替え・フィルター・集計の事故が減ります。最低限、列名は「商品コード」「商品名」「売上」「数量」のようにシンプルにし、空列を作らないのが鉄則です。
ここまで整えば準備は完了です。次章では、この整形済みデータを使って、並べ替え→累計→構成比→ランク付けの順に、ExcelでABC分析を組み立てていきます。
3章:ExcelでABC分析を作る手順(並べ替え→累計→構成比→ランク付け)
整形済みのデータ(商品コード/商品名/売上/数量)が用意できたら、あとはExcelで「上から順に積み上げる」だけです。ここでは王道の手順である並べ替え→累計→構成比→ランク付けを、つまずきポイント込みで解説します。
Step1:売上で降順に並べ替える(最重要)
まず、表全体を選択して売上列で「降順(大きい順)」に並べ替えます。ここがズレると、累計も構成比も全部ズレます。
- 表がテーブル化されているなら、売上列のフィルター▼から「降順」
- テーブルでない場合は、表全体を選択して[データ]→[並べ替え](列の一部だけを並べ替えない)
Step2:累計売上を作る(上から足していく)
次に「累計売上」列を追加します。例えば、売上がC列で、2行目からデータがある場合、累計売上(D2)に以下を入れます。
=SUM($C$2:C2)
この式を下までコピーすれば、上から順に売上が積み上がります。A商品=上位の稼ぎ頭が、どれくらいの売上を作っているかが一目で分かる状態になります。
Step3:売上構成比/累計構成比を出す(ABCの「区切り」になる)
ABC分析で実際に使うのは、累計売上の割合(累計売上構成比)です。まず合計売上(総売上)を用意します。やり方は2つあります。
- (手軽)表の外に総売上セルを作る
例:H1に=SUM(C:C)など(範囲は実データに合わせて) - (見通し良い)テーブルの集計行を使う
テーブルに「集計行」を追加し、売上列を合計にする
総売上がH1にあるとして、累計構成比(E2)は以下。
=D2/$H$1
表示形式をパーセンテージ(%)にすると読みやすいです。小数点1桁くらいで十分です。
なお、行ごとの売上構成比(その商品の売上÷総売上)も見たい場合は、別列で =C2/$H$1 を作っておくと、後の改善アクションで効きます(ただしABCの判定自体は累計構成比が主役)。
Step4:A・B・Cをランク付けする(しきい値で分類)
最後に、累計構成比を使って「A・B・C」を付けます。1章で触れた目安どおり、たとえばA:〜70%/B:〜90%/C:〜100%で区切るなら、ランク列(F2)に以下を入れます。
=IF(E2<=0.7,"A",IF(E2<=0.9,"B","C"))
これを下までコピーすれば完成です。あとはフィルターでAだけ表示したり、Bだけ抜き出して「育成枠」を作ったりできます。
仕上げ:分析を“使える表”にする小技
- フィルター+色分け:Aを濃い色、Bを中間色、Cを薄い色にすると会議で通りやすい
- 同率対策:売上が同じ商品が多い場合は、数量や粗利で並べ替え条件を追加してもOK
- 確認ポイント:最下行の累計構成比がほぼ100%(四捨五入誤差はOK)になっているか
ここまでできれば、Excel上で「どの商品が売上を作っているか」がA・B・Cで可視化されました。ただし、完成はスタート地点です。次章では、A・B・Cそれぞれで何をすると売上が伸びるのか、具体的なアクション例に落とし込みます。
4章:分析で終わらせない:A・B・C別の具体的な売上改善アクション例
ABC分析の価値は「分類できた」ではなく、次の打ち手が迷わなくなることにあります。A・B・Cはそれぞれ役割が違うので、同じ施策を当てるとコケます。ここでは、売上を伸ばすための“使い分け”を具体例で整理します。
A商品:売上の柱は「伸ばす」より先に“落とさない”
Aはすでに売れています。だから最優先は取りこぼし防止です。
- 欠品ゼロ運用:在庫アラート、発注点の見直し、納期が長い商品は安全在庫を厚めに
- 導線の最適化:ECなら上位表示・おすすめ枠固定、現場なら目立つ棚・定番位置の死守
- セット・関連販売:Aを「入口」にして、周辺商品(アクセサリ、消耗品)を同時提案
- 値引きは慎重に:Aを安売りして売れても、利益とBの伸びしろを潰すことがある
イメージは“守り7割・攻め3割”。Aは崩れると売上全体が一気に落ちます。
B商品:いちばん“伸びしろ”がある育成枠
Bは「あと一歩でA」の候補。施策が当たりやすいゾーンです。
- 露出を少し増やす:一覧の上段、POP追加、社内で推奨トークを用意(Aほどの枠は不要)
- 価格・訴求の微調整:値下げより、比較表やベネフィット訴求で“選ばれる理由”を作る
- バンドルで引き上げ:Aと組ませて売る(例:A購入者向けにBを同梱・セット割)
- レビュー・事例を集める:Bは情報不足で選ばれてないことが多い。安心材料が効く
Bは少ない工数で売上が動きやすいので、「今月の重点10商品」みたいに絞って回すのがおすすめです。
C商品:全部は追わない。“整理”か“目的を持った残す”
Cは数が多く、ここに時間を溶かすと負けます。基本方針は2択です。
- 縮小・撤退:在庫を持ちすぎない、発注ロットを下げる、取り扱い停止を検討(棚・工数をA/Bへ)
- 役割があるものだけ残す:例えば「来店の入口」「問い合わせ対策」「セットの補完」など目的がある商品
判断のコツは、Cをさらに分けて考えること。「たまたま売れてない」のか、「構造的に売れない」のか。数量が極端に少ないものは、販促より先に“置く意味”を問い直した方が早いです。
現場で効く「アクションへの落とし込み」テンプレ
会議で終わらせないために、各ランクで1行ずつ決めます。
- A:欠品要因トップ3を潰す(納期・発注点・在庫アラート)
- B:今月育成するBを10個選び、露出・訴求を1つだけ変える
- C:撤退候補リストを作り、在庫圧縮のルールを決める
ABC分析は「優先順位の翻訳機」です。Aは守る、Bは育てる、Cは整理する。この型に沿って動くだけで、同じ労力でも売上改善の打率が上がります。
5章:よくある失敗と精度を上げるコツ(期間設定・例外処理・定期運用)
ABC分析はExcelで簡単に作れますが、現場だと「作ったのに使えない」状態になりがちです。原因の多くは、期間の選び方・例外データの扱い・更新頻度の3点。ここを押さえるだけで、分類のブレが減り、4章のA/B/C施策が刺さりやすくなります。
失敗①:期間がズレて“たまたま”をAにしてしまう
よくあるのが、直近1ヶ月だけで作ってキャンペーン商品や季節要因がAに上がるケース。すると「Aは守る」が空回りします。
- 基本は3〜6ヶ月(商材サイクルが短いなら1〜3ヶ月、長いなら12ヶ月も検討)
- 季節商材は「前年同期間」で比較(例:今年の12月 vs 去年の12月)
- 新商品評価は通常ABCと分け、直近4週など別軸で見る
コツは「意思決定したいスパン」に期間を合わせること。発注や棚替えが月次なら月次、四半期で見直すなら四半期で揃えるとブレません。
失敗②:返品・マイナス売上が混ざって順位が壊れる
返品が多い商品は、売上が相殺されてCに落ちることがあります。でも現実には「売れてるのにトラブルで返品が多い」場合もあり、C扱いにすると問題が放置されます。
- 可能なら売上と返品を列で分け、純売上(売上−返品)も作る
- 返品率が高い商品は、ABCとは別に要改善フラグを立てる
ABCは優先順位付けの道具なので、データの“異常”は別管理にすると意思決定が速くなります。
失敗③:端数のしきい値でA/Bが毎回入れ替わる
累計構成比70%・90%の境界付近は、少しの売上変動でランクが入れ替わります。これが起きると「今月のAが先月のB」になり、現場が振り回されます。
- Aの対象数に上限を持たせる(例:Aは最大20商品まで)
- 境界付近(例:65〜75%)は準Aとして別枠で運用する
- 分類基準(70/90)は固定しつつ、実行対象は“重点10商品”のように絞る
「分類」と「やること」を同一にしないのがコツです。分類は地図、実行はルートで分けると安定します。
失敗④:一発作って終わり(更新されず、会議資料になる)
ABC分析は定期運用して初めて効果が出ます。おすすめは月次で更新し、A/B/C別に“見る項目”を固定すること。
- A:欠品回数、在庫日数、機会損失の兆候
- B:露出変更後の売上変化、レビュー数、CVRなど伸びしろ指標
- C:在庫圧縮、撤退候補、役割の明文化(残す理由)
Excelは、元データをテーブル化しておけば更新がラクです。毎月「データ貼り替え→並べ替え→数式コピー」だけで回る形にして、作業コストを下げて継続させましょう。
期間を揃え、例外を分け、更新を仕組みにする。これだけでABC分析は「それっぽい表」から、Aは守る・Bは育てる・Cは整理するための実務の武器に変わります。


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