最初に、この記事の前提をはっきりさせておきます。都市ごとの「地価」を各国横断でそろえた公的統計は存在しません。土地の価格を公表する制度そのものが国ごとに違うためです。日本には国土交通省の地価公示がありますが、同じ形の統計を持つ国のほうが少ない。
そこで代わりに使うのが、不動産サービス大手ナイト・フランクが毎年公表しているPIRI(プライム国際住宅価格指数)です。世界100市場の「プライム住宅」——各都市で最上位に位置する住宅——の価格を同じ基準で集計したもので、100万ドルで何平方メートル買えるかという形で比較できます。
この面積が小さいほど、その都市の住宅は高い。今回はこの数字が小さい順に10位まで並べました。2026年4月23日公表、2025年末時点の集計です。
2025年の世界の高級住宅価格は3.2%上昇。100市場のうち73市場で値上がりし、24市場で値下がりしました。地域別では中東が9.4%、ラテンアメリカ・カリブ海が4.7%、アジア太平洋が3.6%、ヨーロッパが3.3%の上昇で、北米だけが0.9%の下落です。
※以下、断りのない数値はすべてナイト・フランクのPIRI(2025年末時点)によるものです。面積は100万米ドルで購入できるプライム住宅の広さを表します。
| 順位 | 都市 | 2025年末に100万ドルで買える面積 | 2024年末の同じ面積 | 2020年末の同じ面積 |
|---|---|---|---|---|
| 1位 | モナコ | 16㎡ | 19㎡ | 17㎡ |
| 2位 | 香港 | 23㎡ | 22㎡ | 23㎡ |
| 3位 | ジュネーブ | 28㎡ | 33㎡ | 37㎡ |
| 4位 | シンガポール | 28㎡ | 32㎡ | 36㎡ |
| 5位 | ロンドン | 33㎡ | 34㎡ | 31㎡ |
| 6位 | ニューヨーク | 34㎡ | 34㎡ | 35㎡ |
| 7位 | ロサンゼルス | 36㎡ | 37㎡ | 50㎡ |
| 8位 | 東京 | 37㎡ | 58㎡ | 62㎡ |
| 9位 | パリ | 37㎡ | 42㎡ | 42㎡ |
| 10位 | ウィーン | 39㎡ | 45㎡ | 41㎡ |
11位以下は、シドニー42㎡、上海44㎡、ミラノ46㎡、マイアミ58㎡、ベルリン59㎡、ドバイ62㎡、マドリード75㎡、リスボン80㎡、メルボルン83㎡、ムンバイ96㎡と続きます。
3位のジュネーブと4位のシンガポールは、表示上どちらも28㎡。8位の東京と9位のパリも同じ37㎡です。順位は小数点以下で分かれているため、この2組は実質的に並んでいると見たほうが正確です。
1位 モナコ:100万ドルで16㎡。2位の7割の広さ
モナコは16㎡。2位の香港(23㎡)の7割の広さしか買えません。この順位は長く変わっておらず、世界で最も住宅が高い場所として定着しています。
ただし2024年末は19㎡でしたから、1年で3㎡狭くなりました。価格に直せば、それだけ上がったということです。2020年末の17㎡と比べても狭くなっています。
国土面積が約2平方キロメートルという地理的な制約が価格に効いている可能性はありますが、PIRIから読み取れるのは価格の水準と推移までです。
2位 香港:23㎡。5年間ほぼ横ばい
香港は23㎡。2024年末が22㎡、2020年末も23㎡ですから、この5年間ほぼ動いていません。
上位10都市のなかで、2020年から2025年にかけて面積が広がった(=価格が下がった)のは香港だけです。もっともその差は1㎡で、実質的には横ばいと見るべき水準です。
ナイト・フランクは2025年末に香港の「スーパープライム」(最上位価格帯)の取引が大きく増えたと報告しています。価格の指数としては動いていなくても、取引の側では変化が起きているということになります。
3位 ジュネーブ:28㎡。5年で37㎡から縮んだ
ジュネーブは28㎡。2020年末の37㎡から9㎡狭くなっており、上位10都市のなかでは東京、ロサンゼルスに次ぐ変化の大きさです。
2024年末は33㎡でしたから、直近1年でも5㎡縮んでいます。値上がりのペースが落ちていない都市だといえます。
スイスにはもうひとつ、チューリッヒという高価格の都市があります。旧記事ではチューリッヒが8位に入っていましたが、今回の集計の上位10都市には含まれていません。
4位 シンガポール:28㎡。5年で36㎡から縮んだ
シンガポールは28㎡で、ジュネーブとほぼ並びます。2020年末は36㎡でしたから、5年で8㎡の縮小です。
アジアの都市としては香港に次ぐ2番目の高さ。香港が5年間ほぼ横ばいだったのに対し、シンガポールは一貫して上がり続けており、両者の差は2020年末の13㎡から2025年末には5㎡まで縮まりました。
5位 ロンドン:33㎡。上位10都市で唯一、5年前より広い
ロンドンは33㎡。2024年末は34㎡で、直近1年の変化はわずかです。
目を引くのは5年前との比較で、2020年末は31㎡でした。つまり現在のほうが2㎡広く買える——価格が下がっているということです。上位10都市のなかで、2020年末より面積が広がっているのはロンドンだけです。
1位のモナコが17㎡から16㎡へ、3位のジュネーブが37㎡から28㎡へ縮むなかで、ロンドンだけが逆を向いている。ヨーロッパの高級住宅市場が一様ではないことを示す数字です。
6位 ニューヨーク:34㎡。3年間ほとんど動かない
ニューヨークは34㎡。2024年末も34㎡、2020年末は35㎡で、5年を通じてほぼ変化がありません。
2025年は北米の高級住宅価格が地域全体で0.9%の下落となり、上昇した中東(9.4%)やアジア太平洋(3.6%)とは対照的でした。ナイト・フランクはこの下落をカナダの価格下落が主因としています。ニューヨークの横ばいは、その北米のなかでは健闘している部類に入ります。
7位 ロサンゼルス:36㎡。5年で50㎡から縮んだ
ロサンゼルスは36㎡。2020年末の50㎡から14㎡狭くなっており、この5年の変化幅は上位10都市で東京に次ぐ2番目の大きさです。
直近1年では37㎡から36㎡と、変化はわずか1㎡。値上がりの大半は2021年から2023年にかけて起きた計算になります。
同じ北米のニューヨーク(34㎡)との差は2㎡まで縮まりました。2020年末は15㎡の差がありましたから、この5年でほぼ並んだことになります。
8位 東京:37㎡。1年で58㎡から急変
東京は37㎡。2024年末は58㎡でしたから、1年で21㎡も狭くなりました。上位10都市のどこよりも大きな変化です。
ナイト・フランクによれば、2025年の東京のプライム住宅価格は58.5%上昇。これは調査対象100市場のなかで最大の上昇率でした。2位のドバイ(25.1%)の2倍以上です。
2020年末は62㎡でしたから、5年前と比べると25㎡縮んだことになります。ただしその大半が直近1年に集中しており、2020年から2024年の4年間では4㎡しか動いていません。2025年に何かが変わったという形が、はっきり数字に出ています。
この急変で、東京はパリやウィーンを抜いて上位10都市の8位に入りました。円安によってドル建ての価格が押し下げられる方向に働くなかでこの上昇率ですから、円建ての値上がりはさらに大きかった可能性があります。ただしPIRIから確認できるのは、ドル換算での価格変動までです。
9位 パリ:37㎡。5年間動かないまま順位が下がる
パリは37㎡。2024年末は42㎡、2020年末も42㎡で、4年間まったく動かなかったあとに直近1年で5㎡縮んだ形です。
東京とほぼ同じ面積ですが、そこに至る経路はまったく違います。東京が1年で21㎡動いたのに対し、パリは5年で5㎡。同じ順位帯にいても、市場の動き方は別物です。
10位 ウィーン:39㎡。ヨーロッパで4番目
ウィーンは39㎡。2024年末の45㎡から6㎡縮みました。2020年末は41㎡ですから、5年で見れば2㎡の縮小にとどまります。
ヨーロッパの都市としては、モナコ・ジュネーブ・ロンドン・パリに次ぐ5番目。11位以下にはミラノ(46㎡)、ベルリン(59㎡)、マドリード(75㎡)、リスボン(80㎡)が続きます。ヨーロッパ域内でも、都市によって2倍から5倍の開きがあることになります。
まとめ
上位10都市の顔ぶれを地域で分けると、ヨーロッパが5都市(モナコ・ジュネーブ・ロンドン・パリ・ウィーン)、アジアが3都市(香港・シンガポール・東京)、北米が2都市(ニューヨーク・ロサンゼルス)。人口規模の大きい都市が並んでいるわけではなく、モナコのように人口4万人に満たない場所が1位に立ちます。
5年間の変化で見ると、都市の性格が分かれます。大きく縮んだ(値上がりした)のは東京25㎡、ロサンゼルス14㎡、ジュネーブ9㎡、シンガポール8㎡。ほとんど動かなかったのが香港、ニューヨーク、パリ、ウィーン。そして唯一広がった(値下がりした)のがロンドンです。「世界的に高級住宅が値上がりしている」という一般論では、この違いは説明できません。
日本の読者にとっての要点は、東京の位置が1年で変わったことでしょう。2024年末の58㎡は、今回の11位以下でいえばマイアミ(58㎡)と同じ水準でした。それが1年で37㎡になり、パリやウィーンを抜いた。2025年の上昇率58.5%は、調査対象100市場で最大です。
最後に、この記事の数字の性格についてもう一度書いておきます。PIRIが測っているのは各都市の最上位価格帯の住宅であって、土地そのものの価格でも、平均的な住宅の価格でもありません。同じ都市の一般的な住宅市場が同じ動きをしているとは限らない点は、押さえておく必要があります。
この記事の数値は、次の資料によるものです。


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