Excelで作る業務プロセス改善のためのスループット分析

Excelで作る業務プロセス改善のためのスループット分析 IT
  1. なぜ今「スループット」なのか?──残業を増やさず成果を上げる考え方
  2. スループット分析の基本──ボトルネック・WIP・リードタイムを押さえる
    1. 1) ボトルネック:仕事が渋滞する“首の細い場所”
    2. 2) WIP(仕掛かり):抱えている“進行中”の量
    3. 3) リードタイム:着手〜完了までにかかった時間
    4. 3つの関係:WIPが増えるとリードタイムが伸び、スループットが落ちる
  3. Excelで見える化する準備──必要なデータと集め方(最小構成でOK)
    1. 最小構成で必要なのは「ID・工程・日付」の3点
    2. Excelの入力シートは「1行=1タスク」が一番ラク
    3. 工程(ステータス)は「4〜6個」に絞ると回ります
    4. データの集め方:新しく頑張らず「既存の履歴」から拾う
    5. 欠損があってもOK:ルールを決めてブレを減らす
    6. 最初の1〜2週間は「運用しながら整える」で十分
  4. Excel実装編──ピボット+関数+グラフで「詰まり」を特定する手順
    1. Step1:列を追加して「リードタイム」と「滞留」を数値にする
    2. Step2:ピボットで「工程別WIP」を出してボトルネック候補を見つける
    3. Step3:リードタイムを「工程×種別×担当」で切って、遅いパターンを特定する
    4. Step4:グラフで「詰まりの見た目」を作る(説得力が段違い)
    5. 詰まりを「特定」できたら勝ち:次章は打ち手に落とす
  5. 改善アクションに落とす──打ち手の優先順位と運用ルール(定着まで)
    1. 優先順位の付け方:①ボトルネック直撃 → ②WIP制限 → ③再発防止
    2. 効く打ち手の例:ボトルネック別テンプレ
    3. 運用ルールは3つで十分:WIP上限/定義/リズム
    4. 定着のコツ:KPIは「完了」と「滞留」に寄せる

なぜ今「スループット」なのか?──残業を増やさず成果を上げる考え方

「タスクは増える一方なのに、残業は増やせない」。20代の会社員なら一度は感じたことがあるはずです。そこで効いてくるのがスループット(Throughput)という考え方。ざっくり言うと一定時間あたりに“完了”できる仕事量のことです。ポイントは、頑張って着手件数を増やすのではなく、完了まで通す力にフォーカスするところにあります。

多くの現場で起きがちなのが、「忙しい=価値が出ている」と思い込んでしまうこと。たとえばメール返信、資料の細かい修正、会議準備などで1日が埋まっても、肝心の案件が完了していなければ成果として見えにくいですよね。スループット思考に切り替えると、評価軸が「どれだけ手を動かしたか」ではなく、どれだけ前に進めて終わらせたかに変わります。

ここで重要なのは、スループットは「気合い」では上がりにくい、という事実です。むしろ、各自が頑張って並行作業を増やすほど、切り替えコスト(集中の途切れ)や確認待ちが増え、結果としてリードタイムが伸びてしまいます。つまり、残業を増やさず成果を上げるには、個人の生産性よりもプロセス全体の流れを整えるほうが効きます。

スループットが注目される背景には、業務が「作業」から「調整・判断・コミュニケーション」寄りになっていることもあります。今の仕事は、誰かの承認待ち、他部署の返答待ち、情報不足による差し戻しなど、自分の手を動かしていない時間が意外と多い。だからこそ、最適化すべきは“個人の頑張り”ではなく、どこで滞っているかを見つけて流れを良くすることです。

そして嬉しいのが、このスループット改善は大げさなツール導入なしでも始められる点。この記事では、身近なExcelで業務の流れを「見える化」し、詰まり(ボトルネック)を特定して、改善の優先順位まで落とし込む方法を解説します。

まずは今日の段階で、次の問いを持っておくだけでOKです。

  • 着手している仕事(進行中)が増えるほど、完了は増えているか?
  • 完了が滞る“1か所”はどこか?
  • その詰まりを解消するのに、追加の残業は本当に必要か?

次章では、スループット分析の基本として、ボトルネックWIP(仕掛かり)リードタイムの3つを押さえ、Excelで扱える形に落としていきます。

スループット分析の基本──ボトルネック・WIP・リードタイムを押さえる

スループットを上げたいなら、まず覚えておきたいのが「流れを止めている1か所を見つけて直す」という発想です。個人の頑張りを足すより、詰まりを1つ取るほうが効きます。そのために使う基本用語が、ボトルネックWIPリードタイムの3つです。

1) ボトルネック:仕事が渋滞する“首の細い場所”

ボトルネックは、プロセス全体の流れを一番遅くしている工程(人・チーム・ルール・待ち)です。ここが詰まると、他をどれだけ速くしても全体は速くなりません。たとえば「承認者が忙しくて止まる」「仕様確認が毎回差し戻される」「テスター待ちで積み上がる」など、“作業”ではなく“待ち”が犯人のことも多いです。

見分け方はシンプルで、仕掛かりが溜まっている場所=疑わしい。Excelで可視化する場合も、「どの工程に未完了が多いか」を見るとボトルネック候補が浮きます。

2) WIP(仕掛かり):抱えている“進行中”の量

WIP(Work In Progress)は、着手したけど完了していない仕事の量です。ポイントは、WIPが増えるほど「みんな忙しそう」に見える一方で、完了が増えるとは限らないこと。WIPが多い状態は、タスク切り替え・確認待ち・優先度変更が発生しやすく、結果として完了が遠のきます。

現場あるあるで言うと、

  • とりあえず着手だけして「90%」が増える
  • 返答待ちのタスクが同時多発して受け身になる
  • 急な割り込みで優先順位が毎日変わる

こうなると、個人の努力では回復しづらいです。だからスループット分析では、WIPを減らす(同時並行を絞る)ことを重要な打ち手として扱います。

3) リードタイム:着手〜完了までにかかった時間

リードタイムは「その仕事が、着手してから完了するまでの時間」。残業が増えるかどうかより、現場で痛いのは「いつ終わるか読めない」状態です。リードタイムを測ると、遅い原因が“作業時間”ではなく“待ち時間”だったと分かるケースがよくあります。

また、改善を判断するには平均だけでなく、バラつきも重要。平均が同じでも、たまに極端に遅い案件が混ざると運用は不安定になります。Excelでは後の章で、中央値や分布(ヒストグラム)も使って「たまに詰まる」を炙り出します。

3つの関係:WIPが増えるとリードタイムが伸び、スループットが落ちる

3つをつなげると理解が速いです。ざっくり言えば、

  • ボトルネックがある
  • そこに仕事が溜まりWIPが増える
  • 待ちが発生してリードタイムが伸びる
  • 完了が増えずスループットが下がる

逆に、改善の優先順位は「忙しそうな場所」ではなく、WIPが溜まりリードタイムを伸ばしているボトルネックから。次章では、この3つをExcelで扱えるようにするために、最低限どんなデータを集めればいいか(難しい工数管理は不要)を整理します。

Excelで見える化する準備──必要なデータと集め方(最小構成でOK)

スループット分析は「細かい工数入力を全員に強制する」みたいな話ではありません。むしろ最初は、既に業務で発生している情報だけで十分です。ここではExcelで可視化するために、最低限そろえるデータ(最小構成)と、現場でムリなく集めるコツをまとめます。

最小構成で必要なのは「ID・工程・日付」の3点

第2章で出てきたWIPとリードタイムを出すには、タスクごとに次の3つがあれば成立します。

  • タスクID:案件名でもチケット番号でもOK(後で追える一意なもの)
  • 工程(ステータス):今どこにあるか(例:受付→対応中→確認待ち→完了)
  • 日付:いつその状態になったか(少なくとも「開始日」「完了日」)

まずは開始日(着手)完了日の2つだけでもリードタイムは計算できます。工程まで取れると「どこで待っているか」まで分かり、ボトルネック特定が一気にラクになります。

Excelの入力シートは「1行=1タスク」が一番ラク

Excelで集計しやすい形は、いわゆる縦持ちの一覧です。列は最初から増やしすぎず、まずはこのくらいでOK。

タスクID 依頼元/顧客 担当 種別 開始日 完了日 現在工程 備考(待ち理由など)
A-001 営業 自分 資料修正 2026/01/05 2026/01/08 完了 承認待ち1日

ここで大事なのは、「担当の作業時間」ではなく「日付」を入れること。スループット分析は、まず“流れ”の遅さ(待ち・渋滞)を見つけるのが目的なので、工数がなくても動きます。

工程(ステータス)は「4〜6個」に絞ると回ります

工程を細かくしすぎると、入力が面倒になって更新されなくなります。おすすめは、現場で解釈がズレにくい4〜6分類。

  • 未着手(依頼は来たが手を付けてない)
  • 対応中(自分/チームで作業している)
  • 確認待ち(レビュー・承認・返答待ち)
  • 差し戻し(戻って修正中)
  • 完了

「確認待ち」を独立させるのがコツです。多くの職場で詰まりの正体は作業量ではなく待ちなので、ここが見えるだけでボトルネック候補が浮きます。

データの集め方:新しく頑張らず「既存の履歴」から拾う

ムリなく始めるなら、次のどれかで十分です。

  • メール/チャットの履歴:依頼日=開始の近似、完了連絡日=完了
  • チケット/問い合わせ管理:起票日・クローズ日がそのまま使える
  • 共有フォルダの更新日:納品物の最終更新日を完了の近似にする
  • カレンダー/議事録:承認会議の日付を「確認待ちの出口」として使える

完璧な時刻や分単位のログは不要です。まずは日単位で揃うだけで、リードタイムの長い案件や、WIPが積み上がる工程は見えてきます。

欠損があってもOK:ルールを決めてブレを減らす

現実には「開始日が曖昧」「完了の定義が人によって違う」が起きます。破綻しないために、最低限この2つだけ決めましょう。

  • 開始日の定義:例)「自分が最初に手を動かした日」or「依頼が受付に入った日」
  • 完了の定義:例)「相手に納品してOKが出た日」or「チケットをCloseした日」

ここが揃っていれば、厳密な正確さよりも比較できることが価値になります。改善前後で同じルールで取れていれば、スループットの変化は判断できます。

最初の1〜2週間は「運用しながら整える」で十分

いきなり全業務を対象にすると続きません。まずは、

  • 対象は1チーム or 自分の担当領域だけ
  • 期間は直近2〜4週間(まず傾向を見る)
  • タスク粒度は「1〜3日で終わる」くらいに寄せる

この条件でExcelに入力できれば、次章のピボット・関数・グラフで、どの工程にWIPが溜まり、どのタイプの案件がリードタイムを伸ばしているかを具体的に特定できます。

Excel実装編──ピボット+関数+グラフで「詰まり」を特定する手順

ここからは、3章で用意した「1行=1タスク」データを使って、Excelでどこが詰まっていて(WIPが溜まり)、何が遅くしているか(リードタイムを伸ばしているか)を特定します。やることは大きく3つ。①列を追加して指標化 → ②ピボットで集計 → ③グラフで異常を炙り出すです。

Step1:列を追加して「リードタイム」と「滞留」を数値にする

まずは分析用の列を2〜3本だけ足します。関数は難しくしません。

  • リードタイム(日)=完了日-開始日+1(完了日が空なら空欄に)
  • 未完了フラグ=IF(完了日="","未完了","完了")
  • 経過日数(未完了だけ)=IF(完了日="",TODAY()-開始日+1,"")

ポイントは、「完了した仕事=リードタイム」「まだ終わってない仕事=経過日数」を分けること。未完了に経過日数が長いものが混ざっていると、そこが渋滞の中心になりがちです。

Step2:ピボットで「工程別WIP」を出してボトルネック候補を見つける

次に、ExcelのピボットテーブルでWIP(未完了の溜まり)を見ます。

  1. データ範囲を選択 → 挿入ピボットテーブル
  2. 行:現在工程
  3. 値:タスクID(集計方法=件数)
  4. フィルター:未完了フラグ(未完了だけに絞る)

これで「今、どの工程に仕事が溜まっているか」が一発で出ます。最も件数が多い工程が、まずはボトルネック候補です。特に3章で工程に入れた「確認待ち」が突出していたら、原因は作業量ではなく待ち(承認・返答・レビュー)の可能性が高い、という当たりをつけられます。

Step3:リードタイムを「工程×種別×担当」で切って、遅いパターンを特定する

WIPが溜まっているだけだと、「忙しいから」で終わりがち。次は、リードタイムが伸びる条件を特定します。

別のピボットを作り、以下の形にします。

  • 行:種別(資料修正/問い合わせ/設定変更など)
  • 列:現在工程(または担当)
  • 値:リードタイム(日)(集計方法=平均、可能なら中央値に近い指標も意識)
  • フィルター:未完了フラグ=完了(完了したタスクだけで計算する)

ここで見たいのは「全体平均」ではなく、特定の種別だけ遅い/特定工程に入ると急に遅い/特定担当に偏って遅いといった“尖り”です。改善は、この尖りから当てるほうが効きます。

Step4:グラフで「詰まりの見た目」を作る(説得力が段違い)

最後に、上で作ったピボットからグラフにします。おすすめは次の2つです。

  • 工程別WIP(未完了件数):棒グラフ(詰まり工程が一目で分かる)
  • リードタイム分布:ヒストグラム(「たまに極端に遅い」を炙り出す)

ヒストグラムは、リードタイム列を選択して挿入→統計グラフで作れます。平均が同じでも、右側に長い尾(やたら遅い案件)があると運用は不安定。そこにはだいたい「確認待ち」「差し戻し」「情報不足」のような再発パターンが潜んでいます。

詰まりを「特定」できたら勝ち:次章は打ち手に落とす

ここまでで、

  • どの工程にWIPが溜まっているか
  • どの種別・条件でリードタイムが伸びるか
  • 遅延が“常態”か“一部の例外”か

がExcelだけで説明できる状態になります。次章では、この結果を「じゃあ何を変える?」に落とし込みます。ポイントは、気合いではなくボトルネックに効く打ち手を優先順位付きで運用ルールにすることです。

改善アクションに落とす──打ち手の優先順位と運用ルール(定着まで)

4章で「詰まり」が見えたら、次は改善アクションに変換します。ここでやりがちなのが「全体を効率化しよう」として、会議を増やしたり、管理項目を増やしたりすること。スループット改善の鉄則はシンプルで、ボトルネックに効くことだけを、少ないルールで回すです。

優先順位の付け方:①ボトルネック直撃 → ②WIP制限 → ③再発防止

Excelの結果を見ながら、打ち手は次の順で選ぶとブレません。

  1. ボトルネック工程の処理能力を上げる(承認枠を確保、レビュー担当を固定、依頼テンプレで手戻り削減)
  2. 流入を絞ってWIPを減らす(同時並行を減らし、完了を増やす)
  3. 遅延パターンの再発防止(差し戻し理由の上位を潰す)

特に「確認待ち」が詰まっているなら、努力目標は逆効果になりがちです。必要なのは待ちを短縮する仕組み(確認の締切・優先度の明文化・まとめてレビューの時間枠)です。

効く打ち手の例:ボトルネック別テンプレ

  • 確認待ちが多い:承認は「毎日16:00-16:30」などの固定スロット化/依頼テンプレに「目的・期限・判断してほしい点」を必須化
  • 差し戻しが多い:差し戻し理由をExcelの備考に選択式で記録→上位2つだけ改善(例:前提不足、添付漏れ)
  • 特定担当に偏って遅い:属人タスクは分解して引き継げる単位にする/FAQ化・手順書の最小版を作る

運用ルールは3つで十分:WIP上限/定義/リズム

定着させるには「頑張る」より、迷わないルールが効きます。おすすめは次の3点セットです。

  • WIP上限:例)「対応中は1人2件まで」「確認待ちはチームで5件まで」。超えたら新規着手ではなく詰まり解消を優先
  • 開始・完了の定義:3章で決めた定義を固定。数字がブレないだけで、改善が判断できます
  • 週次の見直しリズム:15分でOK。「工程別WIP」「リードタイム上位5件」「差し戻し理由TOP3」だけ確認し、1つだけ手を打つ

定着のコツ:KPIは「完了」と「滞留」に寄せる

管理で見るのは、複雑な指標より次の2つに絞ると現場が回ります。

  • 週あたり完了件数(スループット)
  • 未完了の経過日数が長い案件(滞留)

最後に大事なのは、改善を「一発で当てる」ことではなく、Excelで見える化→小さく変える→数字で確認を繰り返すこと。ボトルネックは移動します。だからこそ、軽い運用で回し続けることが、残業を増やさず成果を上げる最短ルートになります。

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