1章:ロジスティック回帰って何?―「当たる/当たらない」を予測する分析の基本
ロジスティック回帰は、ざっくり言うと「結果が2択のときに、どっちになりそうかを確率で予測する」ための分析手法です。Excelで扱う場面で多いのは、たとえば次のようなテーマ。
- 営業:商談が受注する(1)/しない(0)を予測する
- マーケ:メールを開封する(1)/しない(0)を予測する
- 人事:内定者が入社する(1)/辞退する(0)を予測する
ポイントは、結果(目的変数)が0/1で表せること。ここが、売上金額のような「連続値」を当てにいく重回帰分析と大きく違うところです。
では、ロジスティック回帰は何をやっているのか。イメージとしては、年齢、接触回数、提案回数、Web閲覧数…といった説明変数(原因になりそうな要素)から、結果が「1になる確率」を計算します。出力は次のように捉えると分かりやすいです。
予測確率が0.8 → 「1になる可能性が高い」
予測確率が0.2 → 「0になりそう」
そして実務で重要なのは、「確率を出して終わり」ではなく、どこを境界(しきい値)にして意思決定するかです。たとえば0.5以上なら「受注見込みあり」と判定する、0.7以上なら「優先フォロー対象」とする、など。ここを設計できると、分析が一気に仕事で使える形になります。
もう1つ、ロジスティック回帰が便利な理由は解釈しやすいことです。分析結果には「係数」が出てきますが、係数の符号(+/−)を見るだけでも、
- その変数が増えると「1」になりやすいのか(+)
- 逆に「1」になりにくいのか(−)
が分かります。さらに一歩進めると、係数をオッズ比に変換して「1になりやすさが何倍か」を説明できるので、上司や他部署にも共有しやすいのが強みです(読み解きは4章で扱います)。
注意点も押さえておきましょう。ロジスティック回帰は魔法ではなく、データの質が結果を大きく左右します。目的変数の0/1が正しく定義されていない、欠損が多い、極端な外れ値が混ざっている、そもそもサンプルが少ない…こうした状態だと「それっぽい数字」は出ても、運用で外しがちです。だからこそ次章では、Excelで分析を始める前のデータ準備をしっかり固めます。
ここまでをまとめると、ロジスティック回帰は「2択の結果を確率で予測し、意思決定につなげる」ための基本スキル。Excelでも工夫すれば実行でき、現場の「勘」を「根拠」に変える武器になります。
2章:Excelで始める前の準備―データ形式・0/1目的変数・欠損/外れ値チェック
ロジスティック回帰は「式を回す前の準備」で精度がほぼ決まります。Excelでやるならなおさら、まずはデータを“分析できる形”に整えるのが近道です。ここでは最低限押さえるべき3点(データ形式/0/1目的変数/欠損・外れ値)をまとめます。
① データ形式:1行=1件、1列=1項目にそろえる
基本は1行が1人(1商談/1配信/1応募者)、列に「目的変数」と「説明変数」を並べる形です。Excelあるあるとして、見出しが2段になっていたり、途中に空行・結合セルが入っていたりすると加工が一気に面倒になります。
- 列名は1行目に固定(例:
受注フラグ,年齢,提案回数…) - 結合セルは使わない(ピボット向けの表は分析に不向き)
- 数値は数値、日付は日付で統一(文字列の「3回」などはNG)
まずはCtrl+Tでテーブル化しておくと、範囲ズレや参照ミスも減ります。
② 目的変数は「0/1」をブレなく定義する
1章で触れた通り、目的変数(結果)は0/1で表現できる必要があります。重要なのは「何を1にするか」を業務ルールとして固定すること。
- 受注:受注=1/失注・保留=0(保留をどう扱うかは要検討)
- 開封:開封=1/未開封=0(配信失敗は除外などルール化)
- 入社:入社=1/辞退=0(内定取り消しは除外など)
また、Excelのデータに「Yes/No」「済/未」「○/×」が混ざっているなら、別列で0/1に変換してしまうのが安全です。例えば:
=IF([@結果]="受注",1,0)
この“0/1の揺れ”が残ったままだと、後の推定(Solverなど)が不安定になりがちです。
③ 欠損と外れ値:まずは「件数」と「理由」を洗い出す
欠損や外れ値を放置すると、モデルが「変な学習」をして当たりにくくなります。Excelでできる範囲でも、次のチェックは必須です。
欠損チェック(空白・NA・0の混在に注意)
- 空白セル:
=COUNTBLANK(範囲) - 数値の欠損っぽい0:本当に0なのか(例:年齢0は欠損の可能性大)
- NA文字や「-」が混ざっていないか:フィルターで確認
対応はケース次第ですが、いきなり平均補完するより、まずは欠損が起きた理由(入力漏れ/未取得/仕様)を確認するのが実務的です。目的変数が欠損の行は、基本的に分析から除外します(正解がないため)。
外れ値チェック(まずは可視化)
外れ値は「間違い」と「レアだけど事実」が混ざります。Excelなら以下が手軽です。
- 並べ替えで最大・最小を見に行く
- 箱ひげ図や散布図で分布を確認
AVERAGEだけでなくMEDIANも併用して違和感を見る
たとえば「提案回数=999」など明らかな入力ミスは修正/除外候補。一方で「閲覧数が異常に多い人」は上位顧客かもしれず、消すとむしろ判断を誤ります。外れ値は“消す前に意味を確認”が鉄則です。
ここまでの準備ができると、3章のExcel実行(アドイン/関数/ソルバー)でつまずきにくくなります。ロジスティック回帰は「手法」よりも、まずデータの整形と定義が勝負。次章では、実際にExcelで回帰を走らせる具体手順に入っていきます。
3章:Excelでロジスティック回帰を実行する手順―アドイン/関数/ソルバーでの進め方
準備(目的変数0/1、欠損・外れ値チェック)ができたら、いよいよExcelでロジスティック回帰を回します。結論から言うと、Excelには「ロジスティック回帰ボタン」が標準であるわけではないので、実行方法は大きく3つあります。
- アドインで一発実行(環境次第だが最短)
- 関数で予測確率を計算しながら組む(仕組みが理解できる)
- ソルバー(Solver)で係数を推定する(Excelだけで完結しやすい)
① まずはアドインでやる(使えるなら最速)
会社のPC環境で外部ツールが入れられる場合は、ロジスティック回帰に対応したアドイン(分析ツール系、統計系)を使うのが手っ取り早いです。流れは概ね同じで、
- 目的変数(0/1列)を指定
- 説明変数(年齢、接触回数など複数列)を指定
- 出力先を指定して実行
で係数や予測確率が出ます。ただし注意点もあります。社内端末で導入できないことが多い/バージョン差で手順が違う/“ブラックボックス化”しやすい、という3つ。仕組みを押さえる意味でも、次の「関数+ソルバー」手順を知っておくと詰まりません。
② 関数で「予測確率」を作る(モデルの形をExcel上に再現)
ロジスティック回帰の核は、説明変数の線形結合(スコア)を作って、それをS字カーブで0〜1の確率に変換する点です。Excelでは次の2段階に分けると分かりやすいです。
1) スコア(線形結合)
例:説明変数が X1, X2 の場合
=b0 + b1*X1 + b2*X2
2) 予測確率(ロジスティック変換)
=1/(1+EXP(-スコア))
実務では、係数セル(b0,b1,b2...)を別枠に置き、各行の「スコア列」「予測確率列」を作ります。ここまで作ると、あとは係数を“それっぽく”当てはめるのではなく、Solverで最適化して係数を推定できます。
③ ソルバー(Solver)で係数を推定する(Excelだけで推定まで完結)
Solverは「ある指標が最小/最大になるように、指定したセル(係数)を動かす」機能です。ロジスティック回帰では、正解(0/1)に合う確率を最大化する方向で係数を探させます。代表的なのが対数尤度(ログ尤度)です。
準備として列を作ります(テーブル化していると参照が楽です)。
- 目的変数:
Y(0/1) - スコア:
Z - 予測確率:
P - ログ尤度:
LL
ログ尤度は各行で次の形にします。
=Y*LN(P) + (1-Y)*LN(1-P)
そしてシートのどこかに「ログ尤度の合計」を作ります。
=SUM(LL列)
あとはSolverを設定します。
- [データ]→[ソルバー]を開く(なければ[ファイル]→[オプション]→[アドイン]でSolverを有効化)
- 目的セル:ログ尤度合計セル
- 目標:最大化
- 変数セル:係数セル(
b0,b1,b2...) - 解法:基本はGRG非線形(ロジスティックは非線形なので)
- 実行
うまく収束しないときは、係数の初期値を0にする/説明変数の桁をそろえる(例:金額は千円単位にする)/極端なPが出ないようにPに下限上限を設ける(例:MAX(MIN(P,0.999999),0.000001))などが効きます。Excelだとここでつまずきがちなので、「数式が正しいか」「Pが0や1になってLNがエラーになってないか」をまず疑うのがコツです。
これでExcel上に「係数」と「各行の予測確率」が出せました。次の4章では、出てきた係数をどう読むか(符号、オッズ比、有意性、予測確率の注意点)を、実務で説明できる形に落とし込みます。
4章:結果を読み解くコツ―係数・オッズ比・有意性・予測確率の見方と注意点
3章までで係数(b0,b1,b2...)と予測確率Pが出せたら、次は「その数字をどう解釈して、どう説明するか」が勝負です。ここが曖昧だと、せっかくモデルを作っても「で、何が言えるの?」で終わります。
① まずは係数の符号(+/−)で“方向性”を見る
ロジスティック回帰の係数は、説明変数が増えたときに「1になりやすくなるか/なりにくくなるか」を示します。
- 係数が+:その変数が増えるほど、1(受注/開封/入社)になりやすい
- 係数が−:その変数が増えるほど、1になりにくい
ここで注意したいのは、係数の大きさを直感で比較しないこと。年齢(1単位=1歳)と閲覧数(1単位=1回)では単位が違うので、単純に「係数が大きい=重要」とは言い切れません。比較したいなら、事前に標準化する/単位をそろえる(例:閲覧数を10回単位にする)などの工夫が必要です。
② オッズ比に直すと“何倍か”で説明できる
係数は「対数オッズ」という少し分かりにくい尺度なので、実務説明ではオッズ比に変換すると強いです。式はシンプルで、
=EXP(係数)
オッズ比の解釈はこうです。
- オッズ比が1より大きい:1になりやすさが上がる(プラス要因)
- オッズ比が1より小さい:1になりやすさが下がる(マイナス要因)
たとえば「提案回数」の係数が0.4なら、オッズ比はEXP(0.4)≒1.49。つまり提案回数が1回増えると、受注の“オッズ”が約1.49倍と説明できます(確率が1.49倍、ではない点に注意)。
③ “有意性”はExcel単体だと過信しない(でも目安は作れる)
統計的には「その変数が本当に効いていると言えそうか?」をp値などで判断しますが、Excel+Solverだけだと、標準誤差やp値が自動で出ないことが多いです。アドイン等でp値が出る場合は、一般的に
- p<0.05:有意(効いている可能性が高い)
- p≥0.05:有意と言い切れない(不要、と断定もできない)
を目安にします。ただ実務では、p値だけで採用/不採用を決めるより、「業務的に筋が通るか」「データ量は十分か」「偏りがないか」をセットで見るのが安全です。特に説明変数同士が似ている(例:架電回数と接触回数)と係数が不安定になり、p値もブレやすくなります(多重共線性の影響)。
④ 予測確率Pは“そのまま正解/不正解”にしない
ロジスティック回帰の出力で一番使うのは予測確率Pです。ただし、P=0.6を「当たる」と決めつけないのがコツ。必要なのは「しきい値(閾値)」の設計です。
- 0.5以上なら「見込みあり」
- 0.7以上なら「優先フォロー」
- 0.9以上なら「最重要」
のように、現場のコスト(フォロー工数)と取り逃しリスクで決めます。たとえば営業なら「外してもいいから上位だけ追う」のか、「取り逃しを減らしたい」のかで最適なしきい値は変わります。
⑤ 注意点:当たりそうに見えても“運用で外す”典型パターン
- 学習データにだけ強い:同じデータで作って同じデータで評価すると過大評価になりがち
- 0/1の偏り:受注率が極端に低いと、全部0でも高スコアに見えることがある
- 説明変数が未来情報:受注後に分かる情報を入れると、現場では再現できない
「解釈(係数・オッズ比)」と「運用(しきい値・評価)」をセットで考えると、ロジスティック回帰は一気に“仕事で使える分析”になります。次章では、営業・マーケ・人事それぞれで、どう意思決定に落とすかを具体例でつなげます。
5章:活用例でイメージする―営業/マーケ/人事で使える「意思決定」への落とし込み
ロジスティック回帰の価値は、係数を眺めることでも、確率Pを出すことでもなく、「次に何をするか」を決められることです。ここでは営業・マーケ・人事の3つで、Excelで作った予測確率をどう運用に変えるかを具体化します。
① 営業:見込み確度で「優先順位」と「打ち手」を分ける
例:受注フラグ(1/0)を目的変数に、接触回数、提案回数、業種、過去取引有無などでモデル化。各商談に予測確率Pが付いたら、やることはシンプルです。
- P≥0.7:勝ち筋があるので「見積・稟議・決裁者同席」などクロージング寄り
- 0.4≤P<0.7:情報不足の可能性が高いので「課題深掘り・追加提案」
- P<0.4:今追うより、ナーチャリング/別チャネルへ(工数の最適化)
ここで重要なのは、0.5を機械的に境界にしないこと。営業は工数が有限なので、「上位何件だけ追う」など現実のリソースに合わせてしきい値を設計すると、効果が出やすくなります。
② マーケ:配信リストを「反応しやすい層」から組み替える
例:メール開封(1/0)やクリック(1/0)を目的変数に、配信時間帯、件名タイプ、直近のサイト閲覧数、過去反応などを説明変数に置きます。予測確率を使うと、施策が「一斉配信」から変わります。
- Pが高い層:配信量を増やしても反応が取りやすい(CV寄りの訴求も試せる)
- Pが低い層:件名・オファーを変える、配信頻度を落とす、別チャネルへ切替
さらに実務的には、ABテストの当たりを早く見つける使い方もできます。「Pが高い人にだけABを当てる」ではなく、あえて中間帯(0.4〜0.6)にテストを当てると、差が出やすく学びが早いです。
③ 人事:辞退・離職の“予兆”を見て先回りする
例:内定辞退(1/0)や早期離職(1/0)を目的変数に、面談回数、内定から入社までのリードタイム、オファー内容の納得度(アンケート)、配属希望の一致度などを説明変数にします。
- Pが高い人:追加フォロー面談、現場社員との接点、条件説明の再整理などを手厚く
- Pが低い人:通常フローでOK(過剰対応による工数増を防ぐ)
ただし人事領域は特に、「予測でラベリングして終わり」にならない配慮が必須です。個人を決めつけるためではなく、面談機会や情報提供を最適化するために使う、という運用ルールを先に決めておくと安全です。
意思決定に落とすための最小チェックリスト
- しきい値:誰に・何を・どれだけやるか(工数とリスクで決める)
- 未来情報が入っていないか:運用時点で取得できる変数だけに限定
- 当てにいきすぎない:目的は「当てる」より「打ち手を変えて成果を上げる」
Excelでロジスティック回帰を回せるようになると、勘や経験だけで優先順位を決める状態から、根拠ある“仕分け”ができます。あとは確率に合わせて施策を用意し、回して、改善する。この一連の流れを作れると、分析が「資料作り」ではなく「成果」に直結します。


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