多重共線性とは?Excel分析で起きる「説明変数のかぶり」を理解しよう
Excelで売上予測やアンケート分析をしていると、「回帰分析」という言葉に触れることがあります。たとえば、広告費、営業訪問数、商品単価などを使って、売上にどんな影響があるのかを調べる分析です。
このとき、売上のように「予測したい結果」を目的変数、広告費や営業訪問数のように「結果に影響しそうな要因」を説明変数と呼びます。
多重共線性とは、簡単にいうと、この説明変数同士が似すぎている状態のことです。ビジネスの現場でいうなら、「同じような情報を持つ項目を、別々の要因として分析に入れてしまっている状態」と考えるとわかりやすいでしょう。
たとえば、ある商品の売上を分析するときに、次のような説明変数をExcelに入れたとします。
- 広告費
- Web広告の表示回数
- Web広告のクリック数
- 問い合わせ件数
一見すると、それぞれ別のデータに見えます。しかし、広告費を増やせばWeb広告の表示回数が増え、表示回数が増えればクリック数も増えやすくなります。さらにクリック数が増えれば、問い合わせ件数も増える可能性があります。
つまり、これらの変数はお互いに強く関係している可能性があります。このように、説明変数同士がかなり似た動きをしていると、Excelで回帰分析をしたときに「どの変数が本当に売上に効いているのか」がわかりにくくなります。これが多重共線性の基本的なイメージです。
もう少し身近な例で考えてみましょう。あなたが社員の営業成績を分析するとして、説明変数に「出社時間」と「残業時間」と「総労働時間」を入れたとします。この場合、総労働時間は出社時間や残業時間と関係しやすいため、情報が重複している可能性があります。
Excel上では、それぞれ別の列に入力されているため、つい別々のデータとして扱ってしまいがちです。しかし、分析の中身としては似た情報を二重、三重に入れていることがあります。これが「説明変数のかぶり」です。
多重共線性は、Excelの表を見ただけでは気づきにくいのが厄介なポイントです。データがきれいに並んでいても、変数同士の関係が強すぎると、回帰分析の結果が不安定になることがあります。
特に、仕事でExcel分析を使う場合、「とりあえず関係ありそうな項目を全部入れてみる」という進め方をしがちです。もちろん最初の仮説出しとしては悪くありません。ただし、そのまま分析すると、多重共線性によって結果の解釈を間違えるリスクがあります。
多重共線性を理解する第一歩は、「説明変数は多ければ多いほどよいわけではない」と知ることです。重要なのは、売上や成果に関係しそうな変数を選ぶだけでなく、変数同士が似すぎていないかを確認することです。
Excelでも、相関係数や散布図を使えば、多重共線性の兆候をある程度チェックできます。まずは「変数同士がかぶっていないか?」という視点を持つことが、信頼できる分析結果への第一歩になります。
多重共線性があると何が問題?回帰分析の結果がブレる理由
多重共線性があると、Excelで回帰分析をしたときに結果の見た目はそれらしくても、解釈がかなり難しくなることがあります。特に問題になるのは、「どの説明変数がどれくらい目的変数に影響しているのか」が判断しにくくなる点です。
たとえば、売上を予測するために「広告費」と「広告表示回数」を説明変数に入れたとします。この2つが強く連動している場合、Excelの回帰分析は「売上の増加が広告費によるものなのか、広告表示回数によるものなのか」をうまく切り分けられません。
人間でたとえるなら、ほぼ同じ主張をしている2人に対して、「どちらの意見が成果につながったのか」を無理やり判定しようとしている状態です。すると、分析結果の係数が不自然になったり、少しデータを変えただけで結果が大きく変わったりします。
回帰分析では、各説明変数に対して「係数」が計算されます。係数とは、その変数が1増えたときに目的変数がどれくらい変わるかを示す数値です。たとえば広告費の係数が「2」であれば、広告費が1増えると売上が2増える、といったイメージです。
しかし多重共線性が強いと、この係数が不安定になります。本来は売上にプラスの影響がありそうな変数なのに、係数がマイナスになることもあります。逆に、あまり重要ではない変数の係数が大きく見えてしまうこともあります。
つまり、Excel上では数値がきちんと出ていても、「この変数を増やせば成果が上がる」と単純に判断できないのです。仕事でこの結果をもとに施策を決めると、広告予算の配分や営業活動の優先順位を誤る可能性があります。
さらに、多重共線性があると有意性の判断にも影響します。Excelの回帰分析では、P値などを見て「この変数は統計的に意味がありそうか」を確認することがあります。しかし説明変数同士が似すぎていると、それぞれの影響を分けて評価しにくくなり、本当は関係がありそうな変数でも「有意ではない」と判断される場合があります。
ここで注意したいのは、多重共線性があるからといって、必ずしも予測精度が大きく下がるとは限らない点です。目的が「とにかく売上を予測したい」だけであれば、ある程度使えるモデルになることもあります。
一方で、ビジネス分析では予測だけでなく、「なぜ売上が上がったのか」「どの施策を強化すべきか」を知りたい場面が多いはずです。このように要因を解釈したい場合、多重共線性は大きな問題になります。
特に20代のビジネスパーソンがExcel分析を使う場面では、上司やチームに「この数字から何が言えるのか」を説明する機会もあるでしょう。そのとき、変数同士のかぶりを無視していると、もっともらしいグラフや数値を出していても、根拠の弱い提案になってしまいます。
多重共線性の怖さは、エラーとしてわかりやすく表示されるわけではないことです。Excelは通常どおり分析結果を出してくれます。そのため、分析する側が「この結果はブレていないか」「変数同士が似すぎていないか」を疑う必要があります。
回帰分析の結果を信頼して活用するためには、係数やP値を見る前に、説明変数同士の関係を確認することが大切です。次の章では、Excelで多重共線性の兆候を見抜くための基本的な方法として、相関係数と散布図のチェック方法を見ていきます。
Excelで多重共線性を見抜く基本:相関係数と散布図のチェック方法
多重共線性を見抜く第一歩は、説明変数同士の関係を見ることです。目的変数との関係ではなく、「広告費とクリック数」「営業訪問数と商談数」のように、説明変数同士がどれくらい似た動きをしているかを確認します。
Excelで手軽に確認できる方法は、主に次の2つです。
- 相関係数を確認する
- 散布図でデータの並び方を見る
相関係数で「似た動き」を数値化する
相関係数とは、2つのデータがどれくらい連動しているかを表す数値です。値は-1から1の範囲で表示されます。
- 1に近い:一方が増えると、もう一方も増えやすい
- -1に近い:一方が増えると、もう一方は減りやすい
- 0に近い:あまり関係がない
Excelでは、CORREL関数を使うと簡単に相関係数を出せます。たとえば、広告費のデータがB列、クリック数のデータがC列に入っている場合は、次のように入力します。
=CORREL(B2:B101,C2:C101)
これで、広告費とクリック数の相関係数が計算されます。一般的には、相関係数の絶対値が0.8以上ある場合、かなり強い関係があると考えられます。つまり、0.85や-0.82のような値が出たら、多重共線性の可能性を疑ったほうがよいでしょう。
ただし、相関係数はあくまで目安です。0.8を超えたら必ずアウト、0.7なら必ずセーフというものではありません。ビジネスの意味として、同じような情報を表していないかをあわせて考えることが大切です。
複数の説明変数がある場合は相関行列を作る
説明変数が3つ以上ある場合は、1組ずつ相関係数を確認するのが面倒になります。その場合は、Excelの表で相関行列を作ると便利です。
行と列に同じ説明変数名を並べ、それぞれの交差するセルにCORREL関数を入れていきます。たとえば、「広告費」「表示回数」「クリック数」「問い合わせ件数」があるなら、それぞれの組み合わせで相関係数を出します。
相関行列を作ると、どの変数同士が強く関係しているのかを一覧で確認できます。さらに、条件付き書式を使って、0.8以上のセルに色を付けるようにしておくと、怪しい組み合わせが一目でわかります。
散布図で「一直線に近いか」を見る
相関係数だけでなく、散布図も必ず確認しましょう。数値だけでは見えにくいデータの偏りや外れ値を見つけやすくなるからです。
Excelで散布図を作るには、確認したい2つの説明変数のデータ範囲を選択し、メニューから「挿入」→「散布図」を選びます。たとえば、横軸に広告費、縦軸にクリック数を置くと、2つの関係が点の集まりとして表示されます。
点が右上がりに細長く並んでいる場合は、正の相関が強い状態です。右下がりに細長く並んでいる場合は、負の相関が強い状態です。どちらも、説明変数同士が似た情報を持っている可能性があります。
一方で、点がバラバラに広がっている場合は、強い関係はなさそうだと判断できます。また、一部の外れ値だけが相関係数を大きくしているケースもあるため、散布図で実際の形を見ることは非常に重要です。
Excelで多重共線性をチェックするときは、まず相関係数で数値を確認し、散布図で見た目を確認するという流れを押さえましょう。この2つだけでも、説明変数のかぶりにはかなり気づきやすくなります。
VIFでさらに確認!Excelでできる多重共線性の診断ステップ
相関係数や散布図で「説明変数同士が似ていそう」と感じたら、次に確認したいのがVIFです。VIFは「Variance Inflation Factor」の略で、日本語では分散拡大係数と呼ばれます。簡単にいうと、ある説明変数が他の説明変数によってどれくらい説明されてしまっているかを表す指標です。
相関係数は基本的に「2つの変数の関係」を見る方法でした。一方、VIFは複数の説明変数全体の中で、その変数がどれくらい他の変数とかぶっているかを確認できます。そのため、説明変数が3つ以上ある回帰分析では、VIFを使うと多重共線性をより丁寧に診断できます。
VIFの基本式
VIFは次の式で計算します。
VIF = 1 / (1 - R²)
ここで出てくるR²は、通常の回帰分析で表示される決定係数です。ただし注意したいのは、このR²は「売上などの目的変数を予測する回帰分析」のものではありません。
VIFを計算するときは、確認したい説明変数を一時的に目的変数として扱い、他の説明変数でどれくらい説明できるかを回帰分析します。
たとえば、説明変数が次の4つだとします。
- 広告費
- 表示回数
- クリック数
- 問い合わせ件数
「広告費」のVIFを出したい場合は、広告費を目的変数にして、表示回数・クリック数・問い合わせ件数を説明変数として回帰分析します。その結果として出てきたR²を使って、VIFを計算します。
ExcelでVIFを計算する手順
ExcelでVIFを確認する流れは、次のとおりです。
- VIFを確認したい説明変数を1つ選ぶ
- その変数を目的変数として、他の説明変数で回帰分析する
- 回帰分析の結果からR²を確認する
=1/(1-R²)でVIFを計算する- 他の説明変数についても同じ作業を繰り返す
Excelの「データ分析」機能を使う場合は、「データ」タブ → 「データ分析」 → 「回帰分析」を選びます。目的変数の範囲に、VIFを調べたい変数の列を指定し、説明変数の範囲にそれ以外の説明変数の列を指定します。
回帰分析を実行すると、出力結果の中に「重決定 R2」や「R Square」といった項目が表示されます。この値を使って、別のセルに次のように入力します。
=1/(1-0.85)
たとえばR²が0.85なら、VIFは約6.67になります。
VIFの目安は5または10
VIFの判断基準にはいくつか考え方がありますが、実務では次のような目安で見るとわかりやすいです。
- VIFが1に近い:他の説明変数とのかぶりは小さい
- VIFが5以上:多重共線性の可能性を疑う
- VIFが10以上:多重共線性がかなり強い可能性がある
ただし、VIFも機械的に判断するものではありません。VIFが高いからといって、すぐにその変数を削除すればよいとは限らないからです。ビジネス上どうしても必要な指標であれば、残す判断もあります。
大切なのは、VIFを使って「どの説明変数が他の変数とかぶっているのか」を見える化することです。相関係数と散布図でざっくり確認し、VIFでさらに深掘りする。この流れを押さえておくと、Excelでも回帰分析の結果をより安心して解釈できるようになります。
多重共線性への対策:変数の削除・統合・分析方針の見直し方
相関係数やVIFを確認して多重共線性の可能性が見えてきたら、次に大切なのは「どの変数をどう扱うか」を決めることです。多重共線性は、見つけて終わりではありません。分析の目的に合わせて、説明変数を整理する必要があります。
似た変数はどちらかを削除する
もっとも基本的な対策は、似た情報を持つ変数のどちらかを削除することです。たとえば「広告費」と「広告表示回数」の相関が非常に高く、VIFも高い場合、両方を同時に入れると係数の解釈が不安定になります。
このときは、ビジネス上どちらを重視したいかで判断します。広告予算の意思決定に使いたいなら「広告費」を残す、広告の接触量を見たいなら「表示回数」を残す、といった考え方です。
ポイントは、単に数値だけで削除するのではなく、施策につなげやすい変数を残すことです。上司やチームに説明するときに「なぜその変数を残したのか」を言える状態にしておきましょう。
複数の変数を1つに統合する
削除するのが難しい場合は、似た変数を1つの指標に統合する方法もあります。たとえば「表示回数」「クリック数」「問い合わせ件数」がすべてWeb施策の強さを表しているなら、それぞれを別々に入れるのではなく、「Web施策スコア」のような合成指標にまとめるイメージです。
Excelで簡単に行うなら、各項目を標準化したうえで平均を取る方法があります。厳密な分析では注意が必要ですが、実務でざっくり傾向を見たい場合には有効です。
また、「クリック率 = クリック数 ÷ 表示回数」「成約率 = 成約数 ÷ 問い合わせ件数」のように、元のデータから比率の変数を作るのも一つの手です。単なる件数よりも、ビジネス上の意味がはっきりすることがあります。
分析の目的を見直す
多重共線性への対策で意外と重要なのが、分析方針そのものを見直すことです。そもそも今回の分析で知りたいのは、「売上をできるだけ正確に予測すること」なのか、「売上に効いている要因を説明すること」なのかを整理しましょう。
予測が目的なら、多少の多重共線性があっても、予測精度が十分であれば使える場合があります。一方で、「広告費を増やすべきか」「営業訪問数を増やすべきか」といった意思決定に使うなら、係数の解釈が重要になるため、多重共線性への対応は必須です。
対策後はもう一度チェックする
変数を削除・統合したら、必ずもう一度、相関係数やVIFを確認しましょう。1つの変数を消したことで、別の変数の関係が見えやすくなる場合もあります。
Excel分析では、最初から完璧なモデルを作ろうとする必要はありません。大切なのは、仮説を立てる → 多重共線性を確認する → 変数を整理する → 再チェックするという流れを回すことです。
多重共線性への対策は、難しい統計テクニックというより、「似た情報を入れすぎていないか」を整理する作業です。変数を増やすほど分析が高度になるわけではありません。むしろ、目的に合った変数を絞り込むことで、Excelの回帰分析はぐっと使いやすくなります。


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