赤字の原因は「見えない工数」──案件別に数字を出す準備
「売上は立ってるのに、なぜか利益が残らない」。20代の会社員が案件を回していると、こういう“モヤっと赤字”に一度はぶつかります。原因の多くはシンプルで、工数(かかった時間)が見えていないこと。見えていないものは、当然コントロールできません。
工数が見えない状態だと、例えばこんなことが起きます。
- 見積もりは妥当だったのに、途中の追加対応で時間が溶けていく
- 「ちょっとだけ」のはずが、毎日30分が積み上がる
- 特定の人に作業が偏り、レビュー待ち・手戻りが増える
怖いのは、これらが毎日少しずつ起きる点です。月末に数字を見たときには「どこで増えたのか」が分からず、反省も改善もできない。だからこそ、Excelで工数管理を始める最初のゴールは、立派な表を作ることではなく、案件別に“数字が出る状態”にすることです。
その準備として、まず決めるべきは次の3つです。
1) 「案件」をどう切るか(粒度を統一する)
案件IDがあるならそれを使うのが最強です。ない場合は、案件名の命名ルールを決めましょう(例:2026-05_ABC社_基盤更改)。粒度がブレると集計が崩れて、結局使われなくなります。
2) 工数の範囲を決める(何を“時間”に含めるか)
ここが曖昧だと入力が止まります。おすすめは「案件に紐づく作業は全部」。設計・開発だけでなく、定例、メール、調査、障害対応、社内調整も含めます。赤字の正体はだいたいこの“周辺作業”だからです。
3) まずは「人時」で揃える(単価は後でOK)
最初から金額換算しようとすると単価が人によって違って面倒になりがち。最初は時間(h)だけで十分です。案件別の総工数が出れば、見積工数とのギャップ=赤字予兆が見えます。
ここまで決まると、次はExcelに落とし込むだけです。重要なのは、最初から完璧を目指さず、入力が続く形にすること。次章では、最小構成で回る工数管理表テンプレ(入力項目とルール)を作っていきます。
まずは最小構成で作る:工数管理表テンプレ(入力項目とルール)
工数管理で一番大事なのは「続くこと」です。Excelでよくある失敗は、最初から項目を盛りすぎて入力が止まるパターン。ここでは、案件別に数字が出て、運用も回る最小構成に絞ります。
最小テンプレは「1行=1作業」のログ型
シートはまず1枚でOK。名前は「工数ログ」。作業したら1行追加する形にします(後でピボット集計しやすい)。列は次の7つだけにしましょう。
- 日付(例:2026/05/05)
- 氏名(人別の偏りを見る)
- 案件ID/案件名(1章で決めた粒度で統一)
- 工程(例:要件定義/設計/開発/テスト/運用/調整)
- 作業内容(自由記述はここだけ。短くでOK)
- 工数(h)(0.5刻み推奨)
- メモ(任意)(障害対応・差し込み等、後で振り返る用)
「開始時刻・終了時刻」まで入れると一気に面倒になります。まずは工数(h)だけで十分。慣れてきたら拡張すればOKです。
入力ルールは3つだけ。迷いを消す
入力が続かない原因は、忙しさよりも「これってどっち?」という迷いです。ルールを少なく、強く決めます。
- 原則、当日中に入力(無理なら翌朝10分で前日分)
- 0.5h未満は切り上げ(15分を悩むより“ざっくりでも残す”)
- 案件に迷ったら「共通(社内)」を用意(例:社内MTG、育成、雑務。案件に無理やり寄せない)
特に3つ目は重要です。案件に紐づかない時間を押し込むと、案件側の工数が水増しされて判断が狂います。逆に「共通(社内)」を用意しておけば、案件外で時間が溶けていることも見える化できます。
Excelでの作り込みは「入力の楽さ」だけに投資
見た目を整える前に、入力が速くなる仕掛けを入れましょう。
- テーブル化(Ctrl+T):行追加が自動で広がり、集計の土台が安定
- プルダウン(データの入力規則):氏名、案件、工程は選択式にして表記ゆれを防ぐ
- 工数の入力制限:0以上、かつ0.5刻み(例:0.5,1,1.5…)を推奨
ここまでで、工数管理の「書く」フェーズは完成です。次章では、このログをピボットで集計して、案件別の赤字予兆(増え始めた工程・偏った担当・膨らむ周辺作業)を一気に可視化していきます。
集計で“赤字予兆”を可視化:案件別・人別・工程別のピボット活用
工数ログが書けるようになったら、次は「眺めて気づける形」にします。ここで効くのがピボットテーブル。目的はただ1つ、赤字になる前の“増え方”を早めに見つけることです。
まずは「工数ログ」からピボットを作る(10秒で土台)
- 工数ログのどこか1セルを選択
- 挿入 → ピボットテーブル(テーブル化していれば範囲は自動)
- 新しいシートに作成(シート名は「集計」がおすすめ)
以降は、フィールド(列)をドラッグするだけで視点を切り替えられます。ここからが本番です。
1) 案件別:まず「どの案件が膨らんでいるか」を一発で出す
- 行:案件ID/案件名
- 値:工数(h)の合計
- フィルター:日付(またはグループ化で「週」「月」)
この表で見るべきは「上位の案件」ではなく、先週より増え方が急な案件です。できれば日付を右クリック→グループ化で「週」にまとめると、週次での異常増加が見えます。
さらに余裕があれば、値の表示形式を降順ソートして「今、工数を吸っている案件」を毎週同じ順番で確認できる状態にします。
2) 人別×案件別:偏りが出た瞬間に、リスクが立つ
- 行:氏名
- 列:案件ID/案件名
- 値:工数(h)の合計
ここでの赤字予兆は、特定の人だけが特定案件に張り付き続ける状態です。属人化でレビュー待ちが増えたり、差し込み対応が全部その人に集まって、他タスクが遅れて雪だるま式に工数が増えます。
ピボットの表ができたら、条件付き書式(色の濃淡)を当てると、濃いセル=偏りが直感で分かります。
3) 工程別×案件別:「なぜ増えたか」を特定して手を打つ
- 行:案件ID/案件名
- 列:工程
- 値:工数(h)の合計
赤字化しやすいのは「開発が長い」より、調整・運用・手戻り系の工程が静かに太るケースです。工程別に並べると、例えば「設計のはずなのに調整が多い」「テスト工程で開発工数が出ている」など、違和感が数字で出ます。
ピボットは“3枚作る”が正解。視点を固定して迷わない
おすすめは、1つのピボットをいじり回すのではなく、目的別に3つ複製して固定することです(案件別/人別/工程別)。毎週同じ画面を見ることで、増え方の変化に気づけます。
ここまでで「赤字の匂い」は見えるようになります。次章では、その匂いを見つけた瞬間に動けるように、予実差・稼働率・アラートをExcel関数で仕組み化していきます。
赤字を防ぐ運用術:予実差・稼働率・アラートの仕組み化(Excel関数)
ピボットで「怪しい案件」は見つかります。次に必要なのは、気づきを“行動”に変える仕組みです。ポイントは、毎週同じ指標を自動で出し、閾値を超えたら目に刺さる状態にすること。ここではExcel関数で「予実差」「稼働率」「アラート」を作ります。
1) まず「案件マスタ」を作り、予算(見積工数)を置く
工数ログだけだと「実績」は追えても、赤字の基準(予算)がありません。別シートに「案件マスタ」を作り、案件IDをキーに見積工数(予算h)を持たせます。
| 案件ID | 案件名 | 見積工数(h) | 開始日 | 終了日 |
|---|---|---|---|---|
| PJ001 | ABC社_基盤更改 | 120 | 2026/05/01 | 2026/06/30 |
見積工数がない案件は、仮でいいので置きましょう(あとで修正OK)。「基準がある」だけで運用が一段上がります。
2) 予実差を関数で自動計算(SUMIFSで案件別実績h)
次に「案件サマリ」シートを作り、案件ごとの実績工数を集計します。工数ログがテーブルなら、例として以下のように書けます(列名は適宜読み替え)。
- 案件別 実績工数(h):
=SUMIFS(工数ログ[工数(h)], 工数ログ[案件ID], A2) - 予実差(h)(実績−見積):
=C2 - XLOOKUP(A2, 案件マスタ[案件ID], 案件マスタ[見積工数(h)]) - 消化率(%)(実績÷見積):
=IFERROR(C2 / XLOOKUP(A2, 案件マスタ[案件ID], 案件マスタ[見積工数(h)]), "")
消化率は特に強力で、「70%を超えたのに進捗は50%」みたいな“赤字確定ルート”が早めに見えます。
3) 稼働率を出して「燃えている人」を早期発見
赤字は案件だけの問題に見えて、実際は人の稼働が詰まった瞬間に加速します。そこで「人サマリ」シートを作り、週次の稼働率を出します。
例:対象週の開始日をセルB1に入れる(例:2026/05/04)。その週の工数合計は、日付条件つきのSUMIFSで出せます。
- 週次 実績工数(h):
=SUMIFS(工数ログ[工数(h)], 工数ログ[氏名], A2, 工数ログ[日付], ">="&$B$1, 工数ログ[日付], "<="&$B$1+6) - 稼働率(%)(例:週の基準を40h):
=C2/40
稼働率が1.0超え(100%超)の状態が続くと、手戻りと品質事故で工数がさらに増えます。「忙しい」は美徳じゃなく、赤字の前兆です。
4) アラートは「文字」と「色」で強制的に気づかせる
最後に、判断を迷わせないためのアラートを入れます。おすすめは「赤字予兆を3段階」にすること。
- アラート判定(例:消化率で判定):
=IFS(D2>=1,"危険(見積超過)", D2>=0.8,"注意(8割超)", D2>=0.6,"要監視(6割超)", TRUE,"OK")
そして、この列に条件付き書式を設定します(危険=赤、注意=黄、OK=薄いグレー)。これで週次レビュー時に、見るべき案件が自動で浮き上がるようになります。
ここまでできれば、あなたのExcelは「記録帳」ではなく、赤字を止めるダッシュボードになります。次章では、この仕組みを形骸化させないために、週次レビューの回し方とテンプレの育て方(やりがちな失敗例つき)を紹介します。
明日から回る改善サイクル:週次レビューとテンプレの育て方(失敗例つき)
工数ログ、ピボット、予実差・アラートまで作れたら、最後の勝負は「運用」です。Excelは作った瞬間がピークになりがち。でも本当に赤字を止めるのは、毎週同じリズムで見て、決めて、直すこと。ここでは“明日から回る”週次レビューの型と、テンプレを育てる考え方をまとめます。
週次レビューは30分でOK。「見る順番」を固定する
おすすめは週1回、月曜午前(または金曜夕方)に30分。メンバー全員を集めなくても、まずは担当者+上長で十分です。見る順番は固定します。
- 案件サマリのアラート(「危険」「注意」だけ確認)
- 工程別×案件別で「どこが増えているか」特定
- 人サマリの稼働率で「燃えてる人」がいないか確認
ポイントは、数字の報告会にしないこと。毎週のゴールは、次の1週間で工数の増加を止める“打ち手”を1〜3個決めることです。
決める打ち手は「タスク」ではなく「原因」に紐づける
例えばアラートが「注意(消化率80%)」なら、やるべきは根性の残業ではなく原因の切り分けです。
- 調整工数が増えている → 窓口を1人に固定、会議体を週1に集約
- 手戻りが増えている → レビューの粒度(PR小さく、設計レビュー先行)を変える
- 特定の人に偏り → 作業の分解(引き継げる単位に)とペア作業を入れる
この「原因→対策」を毎週回すと、テンプレがただの表じゃなく、チームの改善ログになります。
テンプレは“増やす”より“削る”。育て方の鉄則
運用が詰まる原因の多くは、列が増えて入力が重くなることです。育て方は逆でOK。
- 迷う列(例:工程が細かすぎる)は、選択肢を減らす
- ほぼ使ってない列(メモ等)は、任意のまま放置(必須化しない)
- 表記ゆれが出る項目(案件名、工程)は、プルダウン強化に投資
工数管理は「正確さ」より「継続」が勝ちます。0.5h刻みでも回っているなら、それが正解です。
よくある失敗例:月末にまとめて入力して崩壊する
一番ありがちな失敗はこれです。月末に思い出し入力→適当に丸める→数字が信用されない→誰も見ない、の負のループ。
対策はシンプルで、入力の時間を予定として確保します。
- 毎営業日 退勤前5分(または翌朝10分)をカレンダーに入れる
- 週次レビューの前日までに未入力があれば、担当者にリマインド
さらに効くのは、レビューで「入力してない人を詰める」のではなく、入力しやすい形に直すこと。入力が止まったら、テンプレ側に原因があることが多いです。
週次で見て、少し直して、また回す。このサイクルが回り出すと、赤字は“結果”ではなく予兆の段階で止められるものに変わります。Excelは派手な機能より、同じ習慣を続けられる設計が最強です。


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